「写真」という自己表現を突き詰める

　私の研究室は、新旧さまざまな写真技術?技法について学びながら、自己の写真表現を模索、追求していく研究室です。撮影や現像の技術や技法を、写真表現の一つの道具として扱えるようになることを目指します。

　通常、学生たちに最初に制作してもらうのは、オルタナティブ写真と呼ばれるものです。これは、現代と古典の技法を織り交ぜた新しい写真表現で、デジタルもしくはフィルムで撮影した写真を、サイアノタイプ、湿板写真、プラチナプリントといった、19世紀頃に発明された古典技法でプリントします。

　古典技法は、それぞれにある程度決まった型はあるものの、使用する薬品の量や処方を調整することによって、生み出したい色やトーン、質感などを、自分でつくり出せるところが魅力です。原始的な写真の魅力、例えば光と影を焼き付ける面白さとか、像が浮かび上がってくる面白さなどが味わえるため、写真をつくることに高い関心がある人には、非常に興味深い研究になると思います。本学の写真学科出身の私も、360足球直播_新英体育在线￥下载官网生の頃から古典技法を使った写真をつくり続けていますが、やってもやっても時間が足りず、やり続けているうちに今に至ったという感じです。

　私は、自身の作品制作において、多くの場合、自分以外の様々な人々の好奇心をテーマにしています。自分の好奇心には限りがありますが、私自身では持ち得ない好奇心は人の数だけあります。なぜそれがそこまで人の心をつかむのか、その人はなぜそれにそこまでの情熱と時間とお金を注いでいるのか、といったことを探りながら、自分の中にないものを撮り、作品にしていくことに、面白さを感じます。

　学生にも、「意識して自分の境界を押し広げるように」ということは常々伝えています。まったく違う文化や世界に触れることで、自分の中の思い込みや慣習を解き放つことができ、新たに吸収したことが、新鮮な発想をもたらすからです。昨年度、私の研究室では、スウェーデンの写真学校との国際文化交流プロジェクトを実施し、ストックホルムと日本で写真展を開催しました。初めての試みでしたが、参加した学生たちは、それぞれ自分なりの新しい視点を手に入れていたようです。私自身も、学生たちの姿から、新たなヒントをもらいました。こうした海外との交流の取り組みは、私の研究室の一つの特徴として、今後も継続的に実施していきたいと考えています。

　東京工芸大学は、写真を学べる大学としては、ハード面においてもソフト面においても、日本で有数の充実した環境が整っています。たとえ「写真を撮ることが好きかも……」くらいのぼんやりした思いで入学したとしても、本学で本格的に学んでいるうちに、写真の面白さや奥深さに気づけるはずです。

　写真には、言葉で説明できないこと、うまく表現できないことを、伝えられる可能性があります。それは芸術の一つの役割でもあります。写真学科の学生には、この恵まれた環境の中で過ごす4年間に、写真による自己表現、写真にしかできないコミュニケーションを、突き詰めてもらいたいと思っています。

　写真学科への入学を検討している高校生は、高校生活の間にしかできない経験や体験を大切にしてください。大学に入るために何かをするよりも、等身大の、今しかできないことをやった方がいい。何かの偶然で同級生になった友人たちと、たくさん話した方がいい。なぜなら、写真はその人の行動の痕跡みたいなものだからです。目の前にあるものしか撮れませんから。その時にしかできない経験を大切にして生きていくのが、一番重要だと思います。

　私の教育活動の最大の目的は、写真を面白いと思える人を増やしていくこと。それが結果的に、写真文化を支え続ける人を増やしていくことになると思うからです。今後も私の研究室では、撮ること、見ること、つくることなど、いろいろな角度から写真の面白さにアプローチしていきたいと思っています。